木原 純子
8人の子育て日記
9月8日(月)
出産の思い出1
 
 私が通っている教会の若い牧師さんの奥さん(K子さん)が、臨月を迎えていたが、夜中に破水した。すでに18時間が経過しているが、まだ生まれていない。あの、陣痛の痛みを思うと、凛とした思いになる。何だか私までおなかが痛む。

 今朝はそわそわして、長崎大学病院産科の分娩室まで行ってきた。分娩室にはオートマティックの鍵が掛けられていて、簡単には入れない。どうしよう? 一瞬戸惑ったが、思い切ってインターフォンを押してみた。恐る恐る「木原ですが、」と言ってみると、病棟から助産婦さんがぴゅーと全速力でやってきて下さった。
「木原さ〜ん、木原さんって聞いて飛んできたとよ。」「あぁ、懐かしい助産婦さん!」
って、ここで同窓会をしているわけにはいかない。ここ長崎大学病院の分娩室は私にとって忘れることの出来ない場所、8人のすべての子供たちが生まれた場所なのだ。

 K子さんはこの時まだ元気だった。でも、あれから15時間がすでに経過している。夜、眠る頃になって、子供たちが皆に集まってきた。「おかあさん、赤ちゃんを産む時っておなかが痛いの?」「赤ちゃんってどうやって生まれるの?」
「う〜ん、一番最初の時はね、」と 1人づつ生まれた時のことを、夜遅くまで話してあげることになった。

 長女、初産の時。夫と私と2人で長崎に引っ越してきて、まだひと月経っていなかった。今から15年前の6月18日の真夜中、突然破水した。26歳の時だった。破水とは赤ちゃんが入っている膜が破れて、赤ちゃんを守っていた水が流れてしまうこと。通常はもっとお産が進んで最後の最後になって破水する。だからすぐに、入院となった。

 破水するとすぐにものすごい勢いで陣痛が来る。5〜6分間隔で強い痛みが容赦なくやってくる。しかも初めての経験で、こんなにも厳しい痛みだとは思いもよらなかった。ベットの上で食べたものを吐いてしまうし、身の置き所がなくて立ち上がってみたり、そばにあった棒を懇親の力で握り続けてみたり。牧師をしている夫に「お祈りしてよ!」と頼んでみるが、いつもの力強いお祈りをしてくれる夫はどこにもいない。あまりにも苦しむ様子に、どうしたらよいか分からないという風だった。

  陣痛、それは聖書によると神さまからの懲らしめの鞭。神さまのたった一つの忠告が聞けなくて、悪魔のささやきに乗ってしまい、エデンにあった美しい木の実を食べてしまったエバ(女性)への刑罰。だから、容赦ない痛み。そんなぁ!  私はエバじゃない!  といっても、よーく突き詰めて考えてみると同じ弱さを持っているのに気づく。

 とにかく、押しよせる陣痛の波に飲み込まれて、「早く、早く助けて!」という思いでいっぱいだった。そして、「何で? 何で、女だけがこんなに苦しむ役割なん?」と無性に腹立たしくなってきた。女に生まれたばっかりに、という思いの裏には、男に生まれた人はいいよね、という恨みがましい思いがあった。男に生まれたかった! と、この頃はまだ女性に生まれてきたことを受け取りきれていなかった。 つづく