木原 純子
10月2日(水)
ブルーマウンテン
 
 ドンドンドン! うるせぇー! 静かにしろ!

 夜の7時半。突然けたたましい罵声が玄関のドアの向こうから聞こえてきた。その上、足で何度もドアを蹴ったので、ドアが大きく揺れた。心臓が飛び出しそうになるくらいびっくりして、ドアが開けられず、「はい、すみません!」と返事をするのがやっとだった。瞬時に悟った。居間で取っ組み合いのケンカ(ふざけて)をしていたのがドンドン響いて、下の階の人がキレてしまったのだ。下の階は設計事務所。しかも居間の真下は所長さんのデスク。

 しーん、と静まり返った。「何で?」と逆にキレてしまう子もいた。「でも、まあ、とにかくあんなに嫌な思いをさせてしまったんだから、悔い改めようと思う子はおいで。」と誘った。何人かでとにかく、まず神さまに「本当にごめんなさい」とお祈りをした。

 そして、その翌日。虎の子の幾らかを使ってブルーマウンテンのコーヒーを十数缶買い、謝りに行くことに。(計算外の出費だった。)それに、これはちよっと勇気がいることだった。でも逃げてなんていられない。所長さんのデスクまで行って「本当に嫌な思いをさせてしまってすみません、皆さんで飲んでください。」とコーヒーを差し出すと、「へっ? 僕は7時ごろ帰ったんで全く気づかなかったなぁ」と意外な返事。「遅くまで残っていたものに聞いてみますから」との事だった。

 それからしばらくして、今度は所長さんのほうが家に来てくださった。「やっぱりウチじゃあないですよ。みんな誰も心当たりがありませんでした。」とブルーマウンテンを返しに来られたのだ。私たちはほとんどコーヒーを飲まないし、いつもうるさくしているから何とかもらって貰おうとしたが、「子供さんがいたら仕方ないですよ。ウチにも孫がいるから分かりますよ。」と、とびっきり優しい笑顔で断られてしまった。

 後で考えてみても、やはり不思議。となりのビルは廊下なので、そこまで響く訳がない。『十字架の恵み』を改めてかみしめた。神さまの前に心から悔い改めると、神さまが良くして下さって、赦してくださって、こんなにさわやかなうれしい思いに変えてくださったのだった。

 後に残ったのは、ブルーマウンテンのコーヒーだった。